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ヒナコの伝言板。

ヒナコの伝言板。

vol.6

「慶介さん、遼ちゃんこれるって?」

と、光一郎。電話のスイッチを切りながら慶介が答える。

「うん、5分でくるよ。それにしてもこれ?淳君の歌詞って。」
「ええ、でも彼女の言葉をそのまま書いただけですよ。」
「それにしてもすごいな・・・。見事に乙女ちっくな・・・。」
「そ・・・それは、木ノ下さんが恋をテーマにとか妙なこというから・・・。」

淳が大慌てで言い訳をする。

「は?オレが悪いっていうのかよ?」
「悪いなんていってないですよ!でもこれはオレの趣味じゃないです!」
「まあ、まあ。」

二人のケンカを仲裁するのは決まって彰の役目だ。

「でもあれだね、こんなきれいな詞、バンドにしちゃあ、・・・っていうか、バンドにあうのか?」
「今までの形式にとらわれる必要はないと思ってます。バンドだからってビジュアル系、イメージするからですよ。普通なことしても面白くないですからね。男4人で女の子の恋心、歌って見せようじゃないですか!!!はっはっは!!!」

慶介の問いに自信満々に彰が語る。なんだかノリノリだ・・・。

「そういえば、これ、なんて読むの?」

光一郎が淳の書いた歌詞の題名部分を指差す。

「Le Ceriser(ル スリジェ)・・・フランス語で桜です。・・・大学生のクセに・・・。」

あきれて淳はコーヒーを一口飲んだ。

「あ・の・なぁ~!!オレたち、フランス語なんて専攻してねえの!!」

光一郎は淳の生意気口調に爆発寸前。握りこぶしを震わせている。

「その教養の無さまでは納得できるけど、辞書でもなんでも調べたらどうです?」
「うちにフランス語辞書なんてタイソウなものあるかってーの!!」
「あんたの大学にも図書館ぐらいあるんじゃないっすか?」
「かっちぃ~~~~~~ん!!まじ、ムカつくお前!!」
「まあ、まあ、二人とももうすぐデビューもしなきゃならないんだし、もう少し仲良く・・・。」
『   ねぇ!!!!!
 でき
    ません!!!!!』

彰の努力も虚しくこの二人の仲は悪くなる一方だ。
慶介はふと時計を見た。さっき遼に電話してから10分・・・。もうそろそろのはずだが・・・。すると、調度ドアがあいて遼がやってきた。

「すいませーん、遅くなりました。」

遼が手前の空いてる慶介の隣の席にやってきた。

「久しぶりだね~、一週間ぶり?すわって、すわって。俺らも今きたとこ・・・。」
「遅い!!」

彰の言葉をさえぎって慶介は目をつむってうで組をしたままいった。

「は?なんでよ?」

イスを引いたままで遼は慶介の言葉の意味を聞き返す。

「駅前のカラオケだろ?ここまでなら5分でこれるだろ。」
「5分?男の足じゃないんだから、無理だって。」
「多少無理でも走ってくればいいだろ?」
「なんで走んなきゃなんないのぉ?」
「『待ってる』っていったろ?『すぐ来い』とも。待たせてるんだから、そのくらい気を使えよ。」
「・・・どうしてそんな怒るのぉ?あたしだってのんびり歩いてたわけじゃないし、用事あるのに、急に呼び出されてもすぐになんてこれないよぉ・・・。」
「どうしちゃったんです?慶介さん。さっきまでなんとも無かったのに急に態度変えちゃって・・・。遼ちゃんもとりあえず座って・・・ね?」

見かねた彰が、申し訳なさそうに割ってはいる。

「別に怒ってないよん。」
『え?』

そういった慶介の顔はいつの間にか笑顔に戻っている。

「なんつうか、これからマネージャーとして、みんなに平等に接しなきゃなんないし、厳しく教育しなきゃいけないのに、オレはハル大好き人間だからさ~、ハルに厳しくする自信ないもんでちょっと練習してみた。本気にしちゃった?ごめんね、ハル。」

そういってかるく隣の遼にだきつく。

「・・・ひどいっ!!もう、あたしマジで慶ちゃん怒ったのかと思って、もうちょとで泣きそう・・・だった・・・のに・・・」

いきなり抱きつくし、慶ちゃんの香水の香りがすっごく近くてなんかドキドキ、情緒不安定・・・。思わず大きな声でどなっちゃったけどほっぺた熱くてすごく恥ずかしくなってきた・・・。

「やだなー、ハル、照れちゃって。かわいいな~、ほんと、こんな妹がほしいよ、お兄ちゃんわ!!」

・・・妹。時々慶介の口からでるこの言葉。そのたび、遼の心にぐさってくる。親しみをこめてくれているはずの言葉が幼馴染みよりもまた遠く、うめられない距離に感じる。目頭が熱くなるのがわかる。

「・・・んー?どうした?」
「なんでもないよ!もう立ち直った!!」

こんな気持ち、慶ちゃんには迷惑なだけ・・・。遼は自分の心とはうらはらに笑ってみせた。

「そうだ!笹山さん、歌できたって・・・。」
「あ・・・、うん、これが、でもテープで、こっちが歌詞ね。」

彰が自分のバックからカセットと光一郎の前にあったルーズリーフを遼の前に並べておいた。

「・・・ル?・・・レ?・・・えーっと・・・。」
「Le Ceriser(ル スリジェ)。フランス語で桜だよ。」

淳がつぶやく。淳と光一郎の方ではまだ重苦しい雰囲気が続いている。

「木ノ下さんと淳君・・・なんかあったんですか?」
「・・・いつものことさ・・・。気にすることはない。それより、みんなに聞いてほしい事があるんだ。実は、昨日バンド名を考えたんだけど・・・。」

彰は張り切って自分の荷物から一冊のノートと漢和辞典をとりだした。


         Vol.7へ・・・・。


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